介護施設での変形労働時間制を使った夜勤の勤怠管理をシステムを使って効率化

情シス

介護事業を運営する上で、職員の勤怠管理は事業の根幹をなす重要な業務です。しかし、特別養護老人ホームやグループホームといった入所型施設では、24時間体制のケアが求められるため、夜勤や変形労働時間制の導入が不可欠となっています。この「変形労働時間制」は、労働基準法の特例として、特定の日や週に法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて勤務させることを可能にしますが、その引き換えに、勤怠管理者には極めて複雑な給与計算と厳格な労働時間管理が求められます。特に、深夜時間帯の割増賃金(深夜手当)や、シフト外で発生した突発的な残業(時間外労働)の計算は非常に複雑です。手作業やExcelでこれらを管理することは、計算ミスや集計漏れによる未払いリスク、ひいてはコンプライアンス違反につながる可能性を常に含んでいます。
本記事は、介護施設の勤怠管理者や責任者の方々に向けて、変形労働時間制の正しい理解と、複雑な夜勤シフトを適正に管理し、勤怠管理システムの導入による効率化に効率的な夜勤の勤怠管理をの方法をご案内いたします。ぜひ法令遵守と勤怠管理の負担軽減を両立させるため勤怠管理システムの選定に進んでみてください。

1. 変形労働時間制の基本と夜勤シフトにおける法的理解

ここでは変形労働時間制の基本と夜勤シフトにおける法的理解についてご案内いたします。

1-1.変形労働時間制(1ヶ月単位)の仕組みと利点

介護施設が24時間体制のサービスを提供し、効率的に人員を配置するためには、労働基準法で原則と定められている「1日8時間、週40時間」という法定労働時間を、日や週の単位で柔軟に超えられる仕組みが必要です。その仕組みこそが変形労働時間制です。

変形労働時間制とは、一定期間(多くの介護施設では1ヶ月単位を採用)を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間以内になるように労働時間を調整する制度です。

【変形労働時間制の仕組みと利点】

項目 概要 介護施設での利点
定義 期間の総枠を平均し、特定の日や週に長時間労働を合法化する特例。 夜勤(例:16時間勤務)や、人員が手薄な時間帯に合わせた長時間シフトが可能になる。
法的効果 1日8時間、週40時間を超える所定労働時間に対して、残業代(割増賃金)の支払い義務が免除される。 シフト通りに働いた場合、長時間の夜勤であってもコストが増加しない。

この制度があるからこそ、多くの施設で「16:00〜翌9:00」といった長時間にわたる2交代制の夜勤シフトを組むことができるのです。

1-2.法定労働時間の上限管理とシフトの確定

変形労働時間制を適正に運用するためには、いくつかの重要な法的要件と管理のポイントがあります。

法定労働時間の上限(総枠)の遵守
変形労働時間制を採用しても、「期間全体の平均で週40時間以内」という制約は変わりません。まず、勤怠管理者として、1ヶ月の暦日数に応じて「法定労働時間の総枠」を把握し、この総枠を超えないようにシフトを組む必要があります。

月の暦日数 期間の法定労働時間の総枠(上限)
31日の月 177.1時間
30日の月 171.4時間
29日の月 165.7時間
28日の月 160.0時間

この総枠を超えて従業員を働かせた時間は、すべて時間外労働(残業)として、割増賃金の支払い対象となります。

1-3.シフトの事前確定と労使協定の重要性

変形労働時間制を有効に適用するには、「いつ、何時間働くか」をあらかじめ具体的に特定し、従業員に周知しておく必要があります。

  • 労使協定の締結・届出
    1ヶ月単位の変形労働時間制を導入する旨を、労働組合または従業員代表との間で協定し、労働基準監督署に届け出ます。
  • シフトの事前確定
    対象期間の開始前に、個々の従業員の労働日と労働時間を明確に定めたシフト表を作成し、周知しなければなりません。

【運用上の最大の注意点】
一度確定し周知したシフト(所定労働時間)を、業務の都合で後から変更した場合、変更後の労働時間すべてが法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超過した時間として取り扱われるリスクがあります。つまり、シフト確定後は、緊急時を除き安易な変更は避け、慎重な運用が求められます。

2. 夜勤シフトにおける残業代・深夜手当の適正計算ルール

ここでは夜勤シフトにおける残業代・深夜手当の適正計算ルールについてご案内いたします。

2-1. 法定割増賃金(深夜手当・残業代)の基礎知識

夜勤シフトを運用する上で、最も複雑でミスが発生しやすいのが各種手当の計算です。特に、残業代(時間外労働の割増賃金)と深夜手当の区別は、法令遵守の鍵となります。

【必須項目】深夜労働代(深夜手当)の整理
深夜手当は、午後10時から翌朝5時までの労働に対して、通常の賃金に25%以上を割増して支払うことが義務付けられています。

  • 法定内労働でも発生
    この深夜割増は、変形労働時間制により「法定労働時間内」とされている勤務時間であっても、深夜帯にかかっていれば必ず発生します。
    例:16時間夜勤のうち、22時~5時の7時間分は、残業でなくても25%割増となります。
  • 残業(時間外労働)との重複
    深夜労働が、さらに法定労働時間を超える残業に該当する場合(深夜残業)は、残業の割増率(25%以上)と深夜の割増率(25%以上)を合計し、50%以上の割増賃金を支払う必要があります。

夜勤手当と法定割増賃金の違い

手当の種類 法的義務 割増率(最低)
深夜手当 義務 25%
残業代 義務 25%
夜勤手当 義務ではない(施設が任意で定める)

施設が独自に定めている「夜勤手当」は、法定の深夜手当とは別に支払われるものであり、深夜手当の支払い義務を相殺したり免除したりすることはできません。

2-2.変形労働時間制で残業代が発生する3つの基準

変形労働時間制を適用している場合でも、「残業ゼロ」ではありません。残業(時間外労働)の有無は、以下の3つの法的基準すべてで判断され、それぞれの基準で確定した残業時間を合計して割増賃金を支払います。

【必須項目】シフトを超えて働いたら残業代が必要なこと(日単位の残業)
これが最も頻繁に発生する残業のパターンであり、月の総労働時間が法定の枠に収まっていても発生します。

  • 所定労働時間の超過
    あらかじめシフトで定められたその日の所定労働時間(例:夜勤で実働14時間)を、緊急対応などで1分でも超えて働いた場合、その超過した時間は即座に残業として確定し、割増賃金が発生します。
  • 8時間ルール
    シフトで8時間以下の所定労働時間が定められていた日に、突発的に8時間を超えて働いた場合も、その超過分は残業となります。

週単位の残業、および月の法定総枠を超過した場合の計算方法
日単位の残業としてカウントされなかった労働時間についても、以下の基準で再チェックが必要です。

  • 週単位の残業
    あらかじめシフトで週40時間以下の所定労働時間が定められていた週で、何らかの理由で実労働時間が40時間を超えた場合、その超過分が残業となります。
  • 期間全体の残業(月の総枠超過)
    1ヶ月の変形期間における実労働時間の合計が、第1章で確認した「法定労働時間の総枠」(例:31日の月で177.1時間)を超えた場合、その超過分はすべて残業となります。

2-3.夜勤明けの突発的な業務における残業発生パターン

介護施設で特に注意すべき残業は、情報共有や記録業務です。日勤者への申し送りや、退勤間際の介護記録作成が長引くことで、所定労働時間(シフトの終わり)をわずかでも超えると、それは残業とみなされます。特に夜勤明けは疲労が蓄積しているため、この時間外労働の管理は健康管理の観点からも重要です。

3.手作業・Excelの勤怠管理が抱える潜在的なリスクと負担

ここでは手作業・Excelの勤怠管理が抱える潜在的なリスクと負担についてご案内いたします。

3-1.避けたい給与計算ミスの構造

手作業や一般的なExcelによる集計は、第2章で確認した複雑な計算ロジックに対応しきれず、給与計算ミスが発生しやすい構造になっています。

  • 複雑な3基準判定の困難さ
    変形労働時間制では、「日単位」「週単位」「期間全体」の3つの基準で残業時間を算定する必要があります。Excelでは、この3つの基準を連動させ、さらに重複しないように残業時間を正確に振り分けるロジックを組むことは、非常に難易度が高く、計算ミスの温床となります。
  • 深夜割増の計算漏れ
    夜勤の場合、深夜(22時~5時)の割増賃金は法定内の労働時間でも発生しますが、手計算では「日中の残業」と「深夜の割増」を混同しやすく、深夜手当の計算漏れや、時間外労働と深夜労働が重なった場合の50%以上の二重割増の適用漏れが発生しがちです。
  • 未払いリスクと罰則
    これらの計算ミスが積み重なると、従業員への賃金未払いとなり、労働基準監督署からの是正勧告や、法令違反として罰則が科されるリスクがあります。これは、施設の信頼を大きく損なう要因となります。

3-2.運用管理の負担増と非効率性

手作業やExcel運用は、計算ミスだけでなく、日々の管理業務自体にも大きな負担をかけます。

  • 煩雑な集計・入力作業
    月末になると、タイムカードや日々の記録から勤務時間を読み取り、Excelへ手入力し、休憩時間や欠勤・有給などを考慮しながら集計する作業に、管理者や事務スタッフは膨大な時間を割くことになります。
  • シフト変更時の再計算
    従業員の急な体調不良や欠勤などでシフトが変更になった場合、その都度、集計表の勤務時間を修正し、残業時間の再計算を行う必要があり、作業効率が著しく低下します。

労働基準法違反につながりかねない、時間外労働の曖昧な管理: 紙やExcelでの管理では、月の途中で「この職員の残業時間が法定の上限に近づいている」といった状況をリアルタイムで把握することが困難です。結果として、従業員に過重労働を強いてしまったり、時間外労働の正確な記録がされず「サービス残業」につながったりするリスクを高めてしまいます。

これらのリスクと非効率性を解消し、法令を遵守しながら安定した事業運営を行うためには、専門的な仕組みの導入が不可欠となります。

4.勤怠管理システム導入による運用の改善効果

ここでは勤怠管理システム導入による運用の改善効果についてご案内いたします。

4-1.システムの導入で得られる運用の効率化(自動化)

勤怠管理システムの導入は、月末の集計作業を劇的に簡素化し、人的ミスを排除します。

  • 残業代・深夜手当の正確な自動計算
    システムは、打刻データと確定されたシフト情報に基づき、第2章で解説した3つの法的基準(日・週・月)をすべて自動で判断します。これにより、手計算では困難だった正確な残業時間の振り分けや、深夜労働、二重割増の計算が瞬時に完了します。管理者は計算ロジックを気にする必要がなくなり、給与計算業務の手間と時間が大幅に削減されます。
  • 客観的な打刻
    労働時間の正確な把握: ICカードやタブレット、生体認証などによる打刻は、手書きのタイムカードと異なり、労働時間を客観的なデータとして記録します。これにより、不正打刻を防ぎ、始業・終業時刻を正確に把握できるため、「何時から何時までが労働時間だったか」という曖昧さが解消され、給与計算との連動もスムーズになります。

4-2.コンプライアンス上の課題解決

システムは計算の自動化だけでなく、法令遵守をサポートする監視役としても機能します。

  • 法定総枠の監視機能
    1ヶ月の変形労働時間制における法定労働時間の総枠(例:177.1時間)をシステムに設定することで、従業員の実働時間がこの総枠に近づいた際に管理者へ自動でアラートを出します。これにより、月の途中で労働時間超過の状況を把握でき、残業の発生を未然に防ぐシフト調整が可能になります。
  • 夜勤間インターバル管理
    夜勤明けの職員の健康配慮義務として、次の勤務までの休息期間(インターバル)を確保することは重要です。システムは、夜勤明けから次の勤務までの間隔が施設が定める時間(例:24時間)を下回るシフトに対して自動警告を出します。これは、シフト調整の段階で従業員の過重労働や健康リスクを回避するために非常に有効です。
  • シフト確定後の変更履歴管理
    システム上での打刻データやシフト変更の履歴はすべて記録されます。これにより、「シフト確定後の変更がなかったか」「残業の指示が適正に行われたか」といった点が明確になり、労働基準監督署による監査や調査への対応がスムーズになります。

勤怠管理システムを導入することで、管理者は給与計算の手間から解放され、法令遵守の体制を強化しながら、より重要なケアの質の向上や職員のマネジメントに時間を割くことができるようになります。

5. 夜勤・変形労働時間制に対応する勤怠管理システム

ここでは介護施設での夜勤・変形労働時間制に対応する代表的な勤怠管理システムをご案内いたします。

システム名 変形労働制 対応 夜勤休憩 設定の柔軟性 特徴(選定のポイント)
カイポケ (Kaipoke) 〇 (1ヶ月単位) 〇 (複数休憩設定可) 介護ソフト一体型で、給与計算・請求業務と連動しやすい。中小事業所向け。
CAERU勤怠 介護 〇 (1ヶ月・1年単位) 〇 (仮眠時間管理に強み) 介護業界特化の勤怠システムで、複雑な法改正や変形労働制の計算に強い。
ジョブマイスター 〇 (1ヶ月単位) シフト管理機能が豊富で、ヘルパーの訪問スケジュール管理と連動しやすい。
ワイズマン(Wiseman) 〇 (機能拡張による) 介護記録・請求ソフトのトップシェア。既存ユーザーは勤怠機能を連携しやすい。
MOT勤怠管理 多業種対応だが機能が豊富。スマホ打刻や位置情報機能など打刻方法が選べる。

 

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