最近はパソコンメーカーからAI PCというものが出ているようだが、一体AI PCで何ができるのか、Windows10の端末も社内に残っているし新しいPCに移行もあるので知っておきたい、という中小企業のシステム担当の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
AI PCはAIの高速処理を専門に行うチップを搭載したパソコンのことで、このチップが入ったAI PCならWindows11の操作において様々なAI機能を利用することができます。
この記事ではPCの新規導入を考えられている中小企業のシステム担当の方に向けて、AI PCとはどのようなもので、何ができて、どんなメリットがあるかをご案内しています。価格帯もスペックにもよりますが10万円を切るものから、20万円台のハイスペックな機種まで比較的幅広くあります。自社の業務効率化につながる場合は、ぜひ機種選定のラインナップにぜひ入れてAI PCも検討してみてください。
1.AI PCとは
ここでは、そもそもAI PCとはどのようなパソコンなのかなど、AI PCについてまず最初に知っていただきたいことをご案内いたします。
1-1.そもそもAI PCとはどのようなパソコンなのか
AI PCとは、AIの処理に特化したNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)を積んでいるPCのことです。NPUはパソコン内で計算や処理を行うCPU(中央演算装置)や、画像や動画の処理を行うGPU(画像処理装置)とは別に、3つ目の処理装置としてAIの処理に特化した装置です。NPUを積まない従来のPCではできなかった、AIの処理を行うことができます。
通常のPCとの違いとしては、その他にもキーボードにCopilotキーを装備していたり、広い意味ではWindows11に搭載されているCopilot in Windows(AIアシスタント機能)を利用できる場合もAI PCと言われることがあります。ちなみに、Windows11のCopilot in Windows機能は、クラウドで処理するAIのためNPUが搭載されていない普通のPCでも利用することはできます。
このように、AI PCという言葉は現状はまだ浸透していないためか、こういう機能や仕様を持たせたPCと現状言えるわけではなく、やや抽象的な言葉として現在は使われています。
1-2.AI PCには2種類ある
ここでAI PCをさらに整理しておきたいと思います。
今現在のAI PCを整理すると2種類のPCに分けることができます。1つ目はマイクロソフトが提唱した高いAI処理能力を装備した「Copilot+ PC」です。そして2つ目は、そこまで高い処理能力を持たないもののAI処理に特化した処理装置を内蔵しているより広い概念として言われる「AI PC」です。
既にAI高い処理処理能力を持った「Copilot +PC」も、そこまで高性能ではないNPUを装備している「AI PC」も市販されており購入することは可能です。
1-3.マイクロソフトが提唱する「Copilot+ PC」とはどのようなPCか
Copilot+ PC(読み方:こぱいろっと ぷらす ぴーしー)は、マイクロソフトが提唱したよりパソコンの新しいカテゴリーのことです。これによりマイクロソフトはWindows11上のアプリケーションでより高機能なAI機能を提供するとしています。マイクロソフトが定めたCopilot+PCの仕様は以下の通りです。
●Copilot+PCの仕様(マイクロソフトが策定)
・NPU処理能力:40TOPS以上
・メモリー:16GB以上
・ストレージ:SSD 256GB以上
●NPUの処理能力の「40TOPS」とは
・40TOPSとは、40兆回の処理を1秒間で行えることを表します。TOPSはTrillion Operations Per Secondの頭文字を取った用語で、NPUの処理速度を表す単位です。ちなみに40TOPSを下回るNPUを搭載しているPCもあります。それら40TOPSを下回るPCでは、マイクロソフトがWindows11上で提供している高機能なAI機能は利用することができません。そのため今後のPC選びでは、NPUの処理能力である「TOPS」の値についても注目していくことをおすすめいたします。
1-4.「Copilot+ PC」の発売メーカーや参考価格帯
ここでは「Copilot+ PC」の発売メーカーや参考価格帯をご案内いたします。
●Copilot+ PCの発売メーカー
NEC、hp、DELL、LG、acer、Lenovo、ASUSなどのPCメーカーがCopilot+ PCを発売しています。またマイクロソフトもCopilot+ PCに対応したSurfaceを発売しています。
●Copilot+ PCの参考価格帯
スペックにもよりますが、数は少ないものの10万円を切るモデルや、10万円台から40万円台までビジネス用途からハイスペックなゲーム用PCまで価格帯は幅広く存在しています。
●Copilot+ PCのオンラインストア
販売中の機種は下記のオンラインストアからも確認することができます。
・Amazon Copilot+PCストア
・ヨドバシカメラ Copilot+PCストア
・ビックカメラ Copilot+PCストア
2.AI PC(Copilot+PCの対象となる40TOPS以上のNPU搭載PC)で何ができるか
ここでは、AI PC(Copilot+PC)でできることをご案内いたします。ここで言うCopilot+PCとは、40TOPS以上の処理能力を持つNPU、16GB以上のメモリー、SSD 256GB以上のストレージが搭載されたWindows11PCのことを指しています。
2-1.ペイントアプリのコクリエイター機能
Windowsに標準搭載されているペイントアプリでコクリエイター(Cocreator)という生成AI機能を利用することができます。このコクリエイター機能は、テキストやペンで書いた情報をもとにAIが画像を生成する機能です。
2-2.Windows11のリコール機能
このリコール(Recall)機能は、Windows11で行ったすべての操作に関して、後から検索したり質問することができます。例えば「数日前に見た最新スマートフォンについてのサイトをまた見たい」などと指示をすると、過去に見たサイトを再表示することもできます。これまでのようにブラウザの履歴から探す必要がなくなります。
2-3.Windows11のライブキャプション機能
このライブキャプション機能は、Windows11上で再生される外国語の音声をリアルタイムで翻訳を行って字幕表示できるものです。例えばTeamsで外国人とオンライン会議で使うことをイメージされるかもしれませんが、Youtubeなど他のアプリでもこの翻訳機能は使うことができます。なお、動画を再生して翻訳して字幕表示することも可能です。
2-4.Windowsスタジオエフェクト機能
Windowsスタジオエフェクト機能は、主にカメラを使ったオンライン会議で周囲の音声から雑音をやわらげたり、自身の映像にぼかしなどの効果を付けたりできる機能です。既にTeamsやZoomには、ぼかしなどの効果を付ける機能は搭載されていますが、Windowsスタジオエフェクト機能ではオンライン会議中に画面の資料に目が行ってしまっていても、カメラ目線を維持できる機能などが搭載されています。このWindowsスタジオエフェクト機能はTeams以外にもZoomなど他のオンライン会議アプリでも利用可能です。
2-5.フォトアプリのイメージクリエーター機能とリスタイル機能
Windowsに標準搭載されているフォトアプリには、テキストの指示で画像を生成できるイメージクリエイター機能と既存の画像に指示を加え画像を加工できるリスタイル機能があります。画像の加工は別途アプリを使って行うことが一般的でしたが、Windows標準搭載のフォトアプリで画像加工を手軽に行うこともできます。
2-6.自動スーパー解像度機能
この自動スーパー解像度機能(Auto SR)は、ゲームを快適に行うために用意された機能です。ゲームで行われる映像処理において、処理速度を優先するため低解像度となってしまった場合でもNPUのAI処理によって映像を高精細に見せることができます。
3.AI PC(40TOPS未満のNPUを搭載している広い概念で言うAI PC)で何ができるか
ここでは、40TOPS未満のNPUを搭載している広い概念で言うAI PCで何ができるかをご案内いたします。
3-1.インターネットにつながないローカルPCやサーバー上でのAI処理の効率的な実行
40TOPS未満のNPUを積んでいるPCでは、Windows11のCopilot+PCで提供される機能は利用できませんが、以下のようなことがNPUの処理を利用して効率的に行うことが可能です。
・会議音声の文字起こしを行うことができる
・画像の加工を行うことができる
・その他生成AIで行えること
なお、インターネットにつながるPCでは、クラウド上で動いている普通のChatGPTやGeminiを便利に使えてしまうのであまりメリットがありませんが、あえてインターネットにつながず外で学習させたくない環境(いわゆるローカルLLM環境)でAIを使いたい場合には40TOPS未満のNPUを搭載しているPCやサーバーでAIを利用することに比較的意味が出てきます。別途ローカルで動くAIを導入して動かす必要があります。
3-2.インターネットにつながないローカルPC上でセキュリティに配慮したAI処理の実行
インターネット上のAIを使う場合に組織内のデータがAIでの学習に利用される懸念について、40TOPS未満のNPUを持つPCやサーバーであれば完全に閉ざされたローカル環境でセキュリティに配慮してAIを効率的に動かすことが可能です。インターネット上のAIでも有料プランの場合は、組織内のデータを学習しないポリシーのものもあるようですが、よりセキュリティに配慮してAIを利用したい場合にも活用することができます。
4.AI PCを使うことのメリット
ここではAI PCを使うことのメリットをご案内いたします。
4-1.AIの処理を高速化できる
AI PCはパソコンに、AI専用の処理装置(NPU)を積んでいるためAIの処理を高速に行うことができます。AIの処理をCPUやGPUでは効率が悪く時間もかかるため、AI専用の処理装置(NPU)を導入することで、ローカルPC上で行うAI処理も高速に行うことができます。
4-2.Windows11の色々なことを効率化できるAI機能を利用できる(Copilot +PCの対象PC)
これもAI PCの大きいメリットですが、Windows11に用意されたAI機能を利用することができます。40TOPS以上のNPUを搭載しているAI PCに限られますが、Windows上で過去に自分が行った操作を呼び出すこともできます。例えば「昨日見たスマートフォンについてのホームページをまた見たい」と指示をすると、該当するページがブラウザで表示され、履歴をさかのぼってページを探すことが不要になります。他にも、リアルタイムで外国語音声を日本語に翻訳して字幕を表示したり、画像の生成も可能です。これらはPCに搭載されたNPUのチップがあることでこういったサービスを実現することができます。
4-3.AIの処理を省電力で行うことができる
AIの処理にCPUやGPUで行う場合は多くの電力を必要としますが、NPUを搭載したAI PCであればAI処理を低消費電力で行うことができます。これはNPUのチップ自体が、AIが学習したデータの中から答えを探って生成する処理を効率的に行えるように設計されているためです。自然言語だけでなく、画像生成や動画処理など様々な処理をNPUを利用することで低消費電力で行うことができます。
4-4.AIの処理をローカルPCでも行うことで遅延を減らすことができる
これまでの一般的なAI利用は、インターネットを介してクラウド上にあるAIに、チャットや写真、動画などのデータを投げて、生成された回答をローカルPCに戻してもらう処理を行っていました。この場合、動画や画像をはじめとした大容量のデータをAIで処理するには遅延が発生してリアルタイムに処理しづらい問題がありました。Windows11ではローカルPCのアプリケーション上でもNPUを使って高速にAI処理を行うので、より高度なAI処理を遅延が少なく行っていくことができます。
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