既に自社でファイルメーカーを導入して業務を行っていたり、ちょうど業務システムのリプレイスを考えており将来的にファイルメーカーを導入するかも、という中小企業のIT担当の方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。
2025年7月9日にAI機能を強化した最新版のファイルメーカー2025が発売されました。ファイルメーカー2025では中小企業による指示でデータベース内を検索したり、その結果を自然言語でAIが回答するといったことも可能になっています。このほかにも、ファイルメーカーにたまったデータをAIに学習させてその会社の専用AIとして利用することもできます。(ファインチューニング機能)
最新版のファイルメーカーでは基本的なデータベース機能に加えて、強化されたAI機能が搭載され業務を効率化できる可能性を秘めています。
ここでは中小企業でITを担当されている方に向け、そもそもファイルメーカーとはどのようなソフトであるかから、ファイルメーカーを使った業務の例や、ファイルメーカー2025で搭載されたAI機能についてご案内いたします。この記事を読んで既にファイルメーカーを導入済みの方はアップグレードの検討にご利用ください。未導入の方で業務システムのリプレイスを検討されている場合は、パッケージよりもファイルメーカーを使った業務システムの方が低価格になる場合もありますのでぜひ検討のラインアップに加えてみてください。
1.ファイルメーカー(FileMaker)とは
ここではファイルメーカーとはどのようなものか、まず最初に知っていただきたいことをご案内いたします。
1-1.ファイルメーカーとはどんなソフトか
ファイルメーカー(FileMaker)とは、市販されているデータベースソフトのことです。データベースソフトなので、会員管理はもちろんのこと販売管理などその他にも活用次第で様々な業務のデータ管理に使うことができます。ファイルメーカーはローコード開発ツールであることもウリとしており、用途によっては最小限のコーディングでデータベースを構築して利用することも可能です。
ファイルメーカーには、PC上で動くソフトや、サーバー上でデータ管理を行うソフトなど、いくつかの種類があります。一番代表的なソフトはWindowsやMacOS上で稼働する「ファイルメーカー」となります。最新バージョンは、2025年7月9日に発売された「ファイルメーカー2025」(Claris FileMaker 2025)です。最新バージョンではAI機能を大幅に強化しており、データベース内に保存されたデータを使ってAIが自然な言葉で回答を生成したり、学習したりすることもできます。これには大規模言語モデル(LLM)と検索拡張生成(RAG)仕組みを活用しています。
ファイルメーカーは1985年の初回発売から40年もバージョンアップを重ねているソフトです。現在はアップルの傘下に入っている米国のクラリス社が世界規模で販売しており、データベースソフト業界では老舗として知られています。
1-2.ファイルメーカーでどんなことができるのか
ファイルメーカーはWindowsやMacOS上で動くデータベースソフトですので、企業で物やサービスを販売する際や、会員管理をするとき、在庫管理、売上や経費を集計するときなど、様々な用途で利用することができます。
オリジナルのデータベースを構築できるため、例えば、中小の小売店が売上管理や在庫管理、顧客管理が連携しているデータベースを作成して利用することもできます。ファイルメーカーはデータベースソフトなので、エクセルと違ってデータ入力専用の画面を作ったり、変更専用の画面も作成できるため、データ入力者が操作に不慣れな人であっても、エクセルであるような間違って他のセルに打ち込んでしまったり削除しまう、といったことは防ぐことができます。
また、目的から考えた場合では紙で行っていた業務をファイルメーカーで電子化し効率化するといった考えでデータベースを構築して利用していくことも可能です。
ここではファイルメーカーでどんなことができるかを中小企業を通してご案内いたしましたが、ファイルメーカーは大手企業でも導入されており幅広い企業で活用されています。
なお、ファイルメーカーはローコードで構築できるデータベースソフトのため社内のスタッフが内製で構築する場合と、ソフトウエア開発ベンダーに依頼して構築する場合があります。
1-3.ファイルメーカー の種類
ここではファイルメーカーの種類をご案内いたします。
ファイルメーカーには、WindowsやMac上で動くアプリケーションからローカルサーバー上で動くアプリケーション、クラウド上で動くアプリケーションのほか、iPhoneやiPad上で動くアプリケーションまで複数の種類があります。
「ファイルメーカー」という名前は、それら全体を表すいわばブランド名です。そのため1つ1つの種類に商品名が付けられており、例えばWindowsやMac上で動くアプリケーションであれば「ファイルメーカー プロ」(FileMaker Pro)という独立した商品名が付いています。各種類ごとの商品名は以下の表を参照してください。
種類 | 提供内容 |
FileMaker Pro | WindowsやMacでデータベースを利用する場合に必要なソフト。ファイルメーカーの開発にも必要となる。 |
FileMaker Cloud | クラウド版のファイルメーカー。自社でサーバーの購入やメンテナス不要で利用できる。 |
FileMaker Server | 自社サーバーでデータベースを管理する場合に必要となるソフト。 |
FileMaker Go | iPhoneやiPadからもデータベースを利用可能にするソフト。 |
1-4.ファイルメーカーの歴史
ファイルメーカーは、1985年から販売されている比較的古くからあるデータベースソフトです。ここでは簡単にファイルメーカーの歴史をご紹介します。
年 | 出来事 |
1985年 | アメリカで初代「FileMaker」が誕生する。マッキントッシュ専用のデータベースソフトとしてリリースされた。 |
1988年 | アップルがクラリス社を買収する。これによりファイルメーカーはアップル(当時のアップルコンピュータ)の傘下に入る。 |
1989年 | 「FileMaker II」で初の日本語版が公開される。 |
1992年 | 「FileMaker Pro 2.0」でWindowsに対応する。 |
1995年 | 「FileMaker Pro 3.0」で関係データベース機能に対応する。これにより複数の業務とも連携可能なデータベースが構築できるようになりWindows95のブームとあいまってファイルメーカーの業務利用が進むきっかけともなる。 |
2002年 | NTTドコモのiモードに対応したファイルメーカーが公開される。2000年代には当時のモバイルディバイス(PalmOSなど)に対応したファイルメーカーが続く。 |
2007年 | 「FileMaker Pro9」が公開。インターネット利用が進み2000年代後半にメール送信機能などの機能が追加される。 |
2013年 | 「FileMaker Pro13」が公開。Webブラウザ上でデータベースの画面へのデータ入力や検索が可能になる。 |
2020年 | クラウド版の「FileMaker Cloud」が日本で公開されサービスを開始する。 |
2024年 | 「FileMaker Pro 2024」でAI 連携を開始する。 |
2025年 | 「FileMaker Pro 2025」でAI 機能が強化されLLMやRAGを活用した自然な言語での回答生成が可能になる。 |
2.ファイルメーカー を使った業務の例
ここではファイルメーカーを使った業務の例をご案内いたします。
2-1.小売店(アパレル)での在庫管理
複数のアパレルショップを持つ企業では、店舗ごとの在庫管理をファイルメーカーで行っています。店舗ごとにどの商品が現在いくつ在庫を持っている状態か、店舗から本社へ何をいくつ発注するか、店舗での最新の売上状況はいくらかなどファイルメーカーで在庫管理業務を行うことができます。
店舗にはタブレット端末を導入することで、店頭でのオペレーターを妨げずスムーズに在庫の販売数や売上を把握することができます。ファイルメーカーにはバーコードリーダー機能があるため、タブレットやスマートフォンを使って商品のバーコードを速やかに読み取ることが可能です。
2-2.食品製造企業での生産管理
食品製造を行う企業では、仕入から製造、出荷までをファイルメーカーで生産管理を行っています。食品製造工場に原材料から製造装置、人員が集中しており、工場内にWi-Fiを張り巡らせてスタッフはiPadへ自工程の進捗を入力しています。
ファイルメーカーではオリジナルのシステムを作れるため、言葉の壁がある外国人スタッフの操作を容易にするために材料のイラストを表示するなど現場にフィットさせる工夫ができています。市販のパッケージシステムだとカスタマイズに費用や時間がかかったり様々な事情で実現できない場合もあります。この食品メーカーではファイルメーカーを使った生産管理システムを内製していることも柔軟に構築ができている要因になっています。
2-3.卸売業での販売管理
食品の卸売業を行っている企業では、市場で食材を買い付けて地元のスーパーなどの小売店に卸しを行っています。毎日のように大量の食材を仕入れて、それを仕分けして納品するのですが、そこで必要となる伝票作成をファイルメーカーで行っています。
もともと市場での買付けは、テレビでご覧になったこともあると思いますが、目まぐるしいスピードで行われます。競り落としの担当者が競り後でiPadへ入力をすることで伝票作成のペーパレス化を実現しています。入力された購買データは仕入費用として基幹システムへ連携できこの点でも伝票管理の手間を減らすことを可能にしています。
3.ファイルメーカー 2025の新機能
ここでは2025年7月9日に公開されたファイルメーカー2025の新機能をご紹介いたします。
3-1.ファイルメーカー2025での主だったAI新機能
ファイルメーカープロなどのアプリケーションで作成するカスタムApp(皆さんが使うソフトのようなもの)にAI機能を組み込むことができます。
【カスタムApp(アプリ)に組み込むことができるAI機能】
- アプリの利用者が質問を入力すると、AIがファイルメーカー内のデータを検索して、自然な言葉で答えを回答します。
- LLM(大規模言語モデル)と RAG(検索拡張生成)を使って、ファイルメーカー内のデータをもとに回答を生成することができます。
- アプリを利用している会社や個人専用のAIをファイルメーカー内のデータを学習させて利用することができます。(ファインチューニング機能)
- ファイルメーカー内にたまったデータに対して将来どうなるか予測する(回帰モデル)ことが可能です。簡単に言うと、肥料を10%増やすと収穫が15%増えたなど、二次関数のようにX(肥料)がどれくらい増えると、Y(収穫)がどれくらい増えるをデータから分析することができます。
3-2.オンプレミス環境での安全にAIを使う機能
新バージョンでは、オンプレミス環境で安全にAIを使うための機能(いわば「社内完結型AI」)も搭載しています。
ファイルメーカーをインターネットから切り離したオンプレミスのサーバー上で運用※している場合でAI機能を利用することができます。すべての情報が会社の中で完結するため、セキュリティを厳しく求める環境でもAI機能を利用することができます。
※正確にはローカル LLM Claris FileMaker Server に同梱の AI モデルサーバーです。
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