職員が現場で記録した介護の開始時間と終了時間(実績)は、介護ソフトが自動で集計し、介護報酬の請求データを作成してくれます。しかし、その後、以下の作業が必要になっているのではないでしょうか。
- 職員が紙の出勤簿、タイムカード、あるいはExcelに手書き・手入力した出退勤記録を回収する。
- その記録と、介護ソフト内の請求用実績データを、職員一人ひとり、サービス提供日ごとに突き合わせる。
- 確認した時間を、給与計算のための勤怠管理表に手作業で再入力(二度打ち)する。
この「請求実績と勤怠記録の二重管理」こそが、介護事業所の事務処理において最も非効率で、かつミスや不正の温床となっている最大の課題です。「どうにかしてこの手間を解消したい」「もっと正確に、かつスムーズに業務を回したい」ときっとお考えかと思います。
結論から申し上げますと、現在介護ソフトに入力している、その信頼性の高い「介護の開始・終了時間」という実績データは、新たに勤怠管理システムを導入し、介護ソフトと連携させることで、職員の正確な勤怠実績として自動で流用できます。
つまり、毎月行っている請求データの作成作業が、そのまま給与計算に直結する正確な勤怠実績を確定させる作業になるのです。この記事では、この連携による具体的な仕組みと、それによって貴事業所が手に入れる「請求」「勤怠」「給与」のトリプルメリットを、実務担当者の視点から解説します。業務効率化と正確な人件費管理の実現に向けてぜひシステム選定を進めてみてください。
1. 「手動の勤怠管理」と「請求実績の二重管理」が引き起こす現場の課題とリスク
介護ソフトで請求実績の管理はできていても、勤怠管理を未だに紙やExcel、タイムカードなどの手作業で行っている場合、以下の様な「二重管理」による課題やリスクに直面しているのではないでしょうか。
1-1.毎月発生する「月末・月初地獄」と多大な労力
現在の手動での勤怠管理は、請求業務に加えて管理者の方々に大きな手間をかけています。
紙・Excelの集計・転記作業: 職員が記入したタイムカードやExcelファイルを回収し、勤務時間の合計を計算する作業。さらに、その時間を給与計算システムや別の管理表へ手作業で転記する「二度打ち」が必須となります。
「突き合わせ」の非効率: 介護ソフト内の請求実績(サービス提供時間)と、職員が自己申告した勤怠時間(出退勤時間)が本当に合っているかを、日付ごとに手動で確認する「突き合わせ作業」は、人件費の無駄であり、大きな時間のロスです。
1-2.データ不一致による「請求と人件費」の整合性リスク
勤怠データが紙や手入力に頼っている場合、以下のデータ不整合リスクは避けられません。
不正申告・記録漏れ: 職員による出退勤時間の記入ミスや、悪意のある不正申告を見抜くことが困難になります。一方、請求実績は介護ソフトに残っているため、請求データと実際の勤務実態との間に大きな乖離が生じかねません。
給与計算ミス: 手書きや手入力による転記ミスが発生すれば、職員の給与が不正確になり、労働基準法上の問題や職員の信頼喪失に直結します。
監査・実地指導リスク: 請求実績と職員の勤務実績の根拠(紙やExcelのデータ)がバラバラである場合、実地指導や監査において、人員配置基準の遵守状況や不正の有無を証明するのに手間がかかる、あるいは疑いを指摘されるリスクが高まります。
1-3.複雑な「常勤換算」と「人員配置」の管理負荷
介護事業所には必須の「人員配置基準」や「常勤換算」の計算は、手動の勤怠管理では極めて困難です。
計算ミスの多発: 職員の勤務時間(出退勤実績)をExcelなどで集計し、常勤換算を毎月手動で計算するのは、手間がかかる上に計算ミスが発生しやすい作業です。
リアルタイム管理の限界: 勤務実態がリアルタイムで把握しづらいため、「うっかり基準を下回っていた」という事態に気付くのが遅れる可能性があります。
これらの課題は、すべて「請求実績という正確なデータ」を「紙やExcelという非効率な勤怠管理」で二重に扱っていることから発生しています。この手間とリスクから解放されるためには、データ連携による一元管理が不可欠です。
次章では、この課題を根本から解決する「介護ソフトと勤怠管理システムの連携」という結論について、改めて詳しく解説します。
2. 介護ソフトと勤怠システム連携で実現する「請求実績の自動流用」
1章で確認した課題を解消するための結論は、シンプルかつ非常に効果的です。それは、「介護ソフト」と「勤怠管理システム」を連携させ、請求と勤怠の根拠となる時間情報を一元化することです。
2-1. 「請求用実績データ = 勤怠実績データ」にする
現在、貴事業所で毎月、国保連への請求データの基礎となっているのは、職員が現場で記録した「介護の開始時間」と「終了時間」です。
システム連携の最大の極意は、勤怠管理システムを導入し、この信頼性の高い請求用実績データを、そのまま職員の「出勤時間」と「退勤時間」という勤怠実績データとして自動で流用する点にあります。
自動流用の流れ(訪問介護の例):
- ヘルパーが利用者宅でサービス開始・終了時にアプリで記録(介護ソフトへ実績登録)。
- 介護ソフト内で、この実績が請求データの基礎として確定される。
- 連携機能により、この実績時間(例:10:00開始、11:00終了)が、勤怠システムに「10:00出勤、11:00退勤」として自動で登録される。
この連携によって、あなたは月末・月初の「請求実績の最終確認」一度の作業で、これまで紙やExcelで行っていた勤怠実績の集計・転記作業は完全に不要になります。データの一元管理を実現することで、手作業による転記ミスや不正申告のリスクがなくなり、管理者としての本来業務に集中できるようになります。次章では、この「請求実績データの勤怠への自動流用」が具体的にどのように実現するのか、連携の仕組みを深掘りして解説します。
3.請求実績データを勤怠に流用する具体的な仕組み
介護ソフトと勤怠管理システムを連携させることで、いかに「二度打ち」が解消され、請求実績データが勤怠データとして自動で流用されるのか。ここでは、この連携がどのように実現するのかを具体的なプロセスに分けて解説します。
3-1.データ連携の主役は「サービス提供実績」の時間情報
連携において主役となるのは、介護ソフト内に登録されている以下の時間情報です。
介護ソフトに記録されている実績データ:
・利用者名
・提供した介護サービスの種類(コード)
・サービス担当職員名
・サービス開始時刻
・サービス終了時刻
特に訪問介護や移動が多いデイサービスなどの場合、職員が現場でスマートフォンやタブレットを使ってサービス開始・終了時に記録(打刻)した情報が、そのままこの実績データとなります。このデータが、請求業務の根拠であると同時に、勤怠管理の根拠となるわけです。
3-2.「実績確定」から「勤怠流用」までの自動連携プロセス
連携機能が有効になっている場合、以下のステップで自動流用が行われます。
実績入力と確定(介護ソフト側): 職員が現場で記録したサービス開始・終了時間の実績を、管理者が介護ソフト内で確認し、請求データとして確定させます。この確定操作が、データ連携のトリガー(引き金)となるのが一般的です。
データ連携(システム間): 確定されたサービス提供実績のうち、「職員」「開始時刻」「終了時刻」の情報が、API連携(システム間を直接つなぐ接続機能)やファイル連携といった仕組みを通じて、勤怠管理システムへ自動で転送されます。
勤怠実績への自動登録(勤怠システム側): 勤怠管理システムは、転送された「サービス開始時刻」を「出勤時刻」として、「サービス終了時刻」を「退勤時刻」として職員の勤務実績に自動登録します。
【ポイント】 手動の勤怠管理では、職員が申告した「Aさんの家に行った時間」と、介護ソフトにある「Aさんへのサービス実績時間」を、管理者が目で見て突き合わせる必要がありました。連携により、システムが「Aさんのサービスの開始・終了時間は、この職員の勤務時間である」と自動で認識してくれるため、突き合わせ作業自体が不要になるのです。
3-3.複雑な勤務形態への対応
「サービス提供時間以外の時間(移動時間、ミーティング時間など)はどうなるのか?」という疑問も生じるでしょう。
優秀な勤怠管理システムは、この流用されたデータと、職員が別途記録した「事業所への出勤/退勤時間」や「待機時間」といった情報とを組み合わせ、複雑なルールに基づいて正確な勤務時間を確定させることができます。
例えば、訪問介護の場合、サービス提供の開始・終了時間が勤怠の核となり、そこに事業所への立ち寄り時間や、休憩時間などが加味されて、最終的な勤務時間が確定します。この組み合わせ処理も自動で行われるため、管理者は煩雑な手作業から解放されます。
次章では、この仕組みを活用することで具体的にどのようなメリットが生まれるのか、請求・勤怠・給与の3つの視点から解説します。
4.連携によって得られる「請求・勤怠・給与」トリプルメリット
介護ソフトと勤怠管理システムを連携し、請求実績データを勤怠実績として自動流用することで、貴事業所が得られるメリットは単なる「手間の削減」にとどまりません。ここでは、業務の根幹を支える3つの視点から、具体的な導入効果を解説します。
4-1.請求業務におけるメリット:正確性の向上と監査リスクの低減
連携によって請求実績と勤怠実績のデータソースが一本化されることで、請求業務の信頼性が劇的に向上します。
データ整合性の確保:紙やExcelでの二重管理では、請求側と勤怠側で時間データが食い違うリスクがありました。連携後は、請求で確定した時間がそのまま勤怠になるため、データの整合性が常に保たれます。
返戻・エラーの減少:勤怠管理側で誤って異なる時間を記録する、といった人為的なミスが原理的に発生しなくなるため、請求上の時間差異による返戻(レセプトエラー)のリスクが大幅に減少します。
実地指導への対応強化:監査や実地指導では、サービス提供実績と職員の勤務実績の整合性が厳しくチェックされます。連携システムなら、両者が完全に一致していることを瞬時に証明できるため、対応の負担とリスクを軽減できます。
4-2.勤怠管理におけるメリット:リアルタイム化と公平性の実現
手動での管理を廃止し、連携したシステムを導入することで、勤怠管理は劇的に進化します。
打刻・転記ミスの完全撤廃:請求実績が自動で流用されるため、管理者によるタイムカードや手書き簿からの集計・転記作業が一切不要になり、それに伴うミスもゼロになります。
リアルタイムでの状況把握:連携によって、職員の勤務状況をリアルタイムまたは確定と同時にシステム上で把握できるようになります。誰がどれだけ働いているか、常勤換算は満たせているかを迅速に確認できます。
公平性の確保:自己申告に頼らず、客観的なサービス提供実績に基づいた勤怠実績となるため、勤務記録の公平性が高まり、職員の納得感につながります。
4-3.給与計算・人件費管理におけるメリット:コストの適正化
正確な勤怠データは、給与計算を正確にし、経営の適正化に貢献します。
給与計算の自動化・効率化:確定した勤怠実績データが、そのまま給与計算システム(連携している場合)へ連携されるため、給与計算が自動化され、毎月の事務作業を大幅に短縮できます。
常勤換算の自動計算:多くの勤怠管理システムや介護ソフトの連携機能は、流用された勤務時間に基づき、常勤換算の計算を自動で行います。これにより、人員配置基準を遵守できているかのチェックが容易になり、管理者負担が大幅に軽減されます。
残業代の適正化:正確なサービス開始・終了時間に基づいた勤務時間となるため、残業代の計算も正確になり、不必要な人件費の支払いや、逆に未払いリスクを回避し、コストの適正化を実現します。
5.勤怠管理システムと連携できる介護ソフト・介護記録アプリ
ここでは勤怠管理システムと連携できる介護ソフト・介護記録アプリをご案内いたします。
サービス名 | 主な分類 | 勤怠管理機能の有無と連携先 | 訪問介護に特化した記録機能 |
カイポケ | 介護ソフト(請求・記録) | 外部連携型: 勤怠機能は内包されていませんが、マネーフォワードクラウド勤怠・給与などと連携し、実績を勤怠・給与計算に活用できます。 | モバイルで記録、実績に自動反映。 |
ワイズマン | 介護ソフト(請求・記録) | 内包/外部連携型: 勤怠管理・給与管理のオプション機能(サブシステム)があるほか、外部の勤怠システムとも連携可能です。 | ケア記録支援ソフト(すぐろくTabletなど)と連携し、記録をシステムに連動。 |
カナミック | 介護ソフト(請求・記録) | 内包型: 記録・請求システムに、勤怠管理・給与計算の機能も連動し、一体運用を可能にしています。 | モバイルアプリ「カナミックかんたん介護記録」を使用。QRコード連携。 |
Care-wing (ケアウイング) | 訪問介護特化の記録・勤怠システム | 内包型: 記録(サービス実績)を打刻(勤務実績)として扱う機能がシステムに組み込まれており、勤怠管理機能も有しています。 | ICタグ・GPS機能により、高い正確性で訪問開始・終了時刻を記録。 |
スマートヘルパー | 訪問介護特化の記録アプリ | 連携用アプリ: 勤怠管理機能は有していません。記録した実績時間を、他の介護ソフトや勤怠システムへ連携します。 | 実績報告時にGPSで位置情報を取得し、正確な訪問を証明。 |
スマイリオ | 訪問介護特化の記録アプリ | 連携用アプリ: 勤怠管理機能は有していません。記録した実績時間を、他のシステムへ連携させることを主な目的とします。 | 記録開始・終了地点をGPS情報で記録。特定事業所加算の指示・ |
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