エクセルや手作業による有給休暇の管理業務を行っており手間がかかっている中堅・中小企業も多いのではないでしょうか。そのため、年5日の有給取得義務の管理も煩雑になり罰則や是正を受けるリスクが高まったり、労務管理担当に負荷が高まってしまう課題が起こりがちです。そんな状況の労務管理担当の方や中小企業経営者の方に向けて、ここでは有給管理ソフト(クラウド型有給管理サービス)を導入して解決できる課題や、ソフトの機能、導入することで得られるメリットやデメリットをご案内します。この記事を読んで有給管理ソフトの導入に向けたソフトの選定にぜひ進んでみてください。
1.有給管理ソフトとは
ここではそもそも有給管理ソフトとはどのようなものかや、有給管理ソフトの種類についてご案内します。
1-1.そもそも有給管理ソフトとは
有給管理ソフトとは、労働基準法に基づき会社が従業員に付与する有給休暇を管理するためのソフトです。このソフトを利用して労務管理担当の方は、従業員に有給規定に基づく有給を付与したり付与後2年が経過した未使用の有給日数の削除などを行います。これらの有給の付与や削除は、社員一人ひとりに付与の基準日や日数を設定することで自動で付与したり、付与後の未使用分は2年後に自動で削除することが可能です。このほか法令で義務化されている1年間に5日の有給取得がきちんと行われているかの管理や、申請や承認のペーパレス化も実現することができます。
1-2.有給管理ソフトの種類
有給管理ソフトには、クラウド型の有給管理ソフト(クラウド型有給管理サービス)とインストール型の有給管理ソフトがあります。
- クラウド型の有給管理ソフト(クラウド型有給管理サービス)
クラウド型の特徴は、有給の付与や削除、有給の取得日数などの基本的な有給管理機能に加えて、従業員の有給申請や承認の機能も搭載されていることです。有給申請や承認の機能が加わることで従業員も含めて有給関連の業務のペーパレス化を行うことができます。一般的に月額制の費用体系が取られています。
代表的なソフトには、有休ノート、オフィスステーション有休管理、マネーフォワード勤怠管理などがあります。 - インストール型の有給管理ソフト
インストール型の特徴は、有給の付与や削除、有給の取得日数などの基本的な有給管理機能に絞られており、安価な初期費用だけで導入することができる事にあります。
代表的なソフトにはシステムコア、有休ママなどがあります。
2.有給管理ソフトの導入で解決できる課題
ここでは有給管理ソフトを導入することで解決できる課題をご案内します。
2-1.有給休暇の正確な管理
働き方改革関連法が成立して、パート・アルバイトを含む従業員に年5日の有給休暇取得義務が2019年より課されています。このため全従業員の有給を正確に管理する必要があります。従業員ごとに異なる付与の基準日や異なる勤続年数に応じて正確に有給申を付与をする一方で、年5日の有給休暇取得ができているか、できそうかも管理していく必要があります。有給管理ソフトを利用することで正確な有給休暇の管理を行っていくことが可能です。
年5日の有給休暇取得ができていなかった場合は法律では罰金が課されることとなっており、有給管理ソフトを使って法令違反リスクを低減していくことができます。
2-2.有給残日数管理や申請のペーパレス化
手間のかかる有給の残日数管理を有給管理ソフトを使うと手軽に自動化することができます。エクセルでの残数管理を行っている場合は計算式のミスなども起こりえますが、有給管理ソフトを使うことで計算ミスを排除していくことが可能です。
また、クラウド型の有給管理ソフトを利用すると有給残数管理の自動化に加えて有給申請や承認も含め有給管理をペーパレス化することができます。
2-3.年5日の有給休暇取得義務に対する注意喚起の実施
有給管理ソフトを利用すると、取得義務となっている1年に5日間の有給休暇を取得していない従業員をリストアップすることが可能です。そのため、リストアップされた社員に個別に取得を促したり、またクラウド型の有給管理ソフトであれば未取得者にメールで連絡することもできます。
例えば、期限の3カ月前から毎月月初に1年間の有給取得数が5日に満たない従業員に連絡することも可能です。
3.有給管理ソフトの機能
ここでは有給管理ソフトの代表的な機能をご案内します。
3-1.有給日数の自動付与機能
自社の有給規定を有給管理ソフトに設定をすることで、有給休暇を従業員ごとに自動で付与することができます。ソフトには主に2つ自動付与する方法があり、1つ目は社員の入社日を基準日にして有給を自動付与する方法です。2つ目は、ある特定の日を基準日にして有給を自動付与するという方法です。
例えば、前者では入社後6カ月を経過した日を基準日として、1年目には10日を付与し、2年目の基準日には11日を自動付与する、といったことも可能です。また後者では、毎年4月1日を基準日として社員の勤続年数に応じた有給日数を付与する、といったことも可能です。
3-2.残日数の管理機能
有給は取得してから2年間を経過すると使用していない日数分は消滅します。有給管理ソフトにおいても、有給の付与を行った基準日から2年が経過すると使用していない残日数分は自動で消滅させることができます。
また有給を使用した際は、通常は付与日が古い順番に取得しや有給日数を消化していくため、消滅が近い有給日数から先にソフト上でも使っていくことになります。
3-3.半日休・時間休の申請機能
時間休はそもそも付与された有給日数のうち1年間に5日以内であれば時間休(時間単位での有給休暇)として利用することができる制度です。この時間休も有給管理ソフトで利用することができます。また有給管理ソフトには通常は半休機能もあります。半休は法律では定められていないものですが、自社の有給規定に半休がある場合はソフト上でも半休日数を管理していくことが可能となります。
3-4.年5日の有給取得義務に対するアラート機能
1年間に有給休暇を10日以上付与した場合は5日間は必ず取得しなければならない法律の規定が2019年から開始されています。もうなじんできた制度かもしれませんが、有給管理ソフト上でも有給を5日取得していない社員にアラートを出す機能が用意されています。例えば有給を5日取得していない社員に対して基準日の3カ月前に取得を促すメールを送ることも可能です。この年5日の有給取得は法律で義務となっており、違反すると罰金が化される規定になっていることもあり、確実な年5日の取得を促すための機能が有給管理ソフトには組み込まれています。
3-5.従業員マイページでの有給申請や残数確認機能
有給管理ソフトの中には従業員マイページが用意されているものもあり、この場合は従業員がWEB上で自分の有給残日数を確認できたり、有給の申請を行うこともできます。正確な有給日数を従業員が自分で確認できるため、労務管理担当者の残数確認の手間も省くことができます。また有給申請についてはWEB申請機能があるため、ペーパレス化することができます。WEBで上がってきた有給申請に対しても承認者が承認を行うことで有給を運用が可能です。
3-6.年次有給休暇管理簿の作成機能
有給管理ソフトには、法律で作成が義務付けられている年次有給休暇管理簿の作成機能もあります。有給管理ソフトの中には連携している勤怠管理システム内で作成するものもありますが、いずれの場合も年次有給休暇管理簿の作成ができるようにはなっています。
3-7.有給の前倒し付与機能
有給管理ソフトには、有給の前倒し付与に対応したものもあるため、自社の有給規定に前倒し付与の規定がある場合はソフト上でも管理することが可能です。
3-8.ダブルトラックへの対応機能
ダブルトラックとは1年間に10日以上の有給が付与された従業員が、(その10日を付与された基準日から1年を経ずに)さらに10日以上の有給を付与された場合に、通常1年間に5日の有給を取得する義務が、日数・期間ともにさらに増えるというものです。こういったダブルトラックに該当する社員の有給取得義務日数も自動で計算できる有給管理ソフトもあります。
【ダブルトラックの詳細説明】
以下のAさんの例ではダブルトラックに該当し、有給取得義務の日数も5日以上となります。
- Aさんは2024年4月1日に入社し、有給付与基準日の2024年10月1日に初年度分として10日間の有給が付与される。
- そして翌年の2025年4月1日(この日も有給付与基準日になる)に自社の有給規定に基づき11日の有給が新たに付与される。
この場合、1.で10日の有給を取得して1年を経ずに、再び10日以上の有給が付与されるためダブルトラックに該当します。
ダブルトラックに該当した場合の有給取得義務の日数は以下のように計算します。
★は、1.の有給付与基準日~2.の有給取得義務における取得期限日です。
【計算式】
=★2024年10月~2026年3月の月数(18ヵ月)÷12×5
=18÷12×5
=7.5日
そのため、Aさんの有給取得は、2024年10月~2026年3月の期間に、7.5日取得する義務があります。
ダブルトラックについて詳しくは厚生労働省のサイトをご覧ください。
4.メリット
ここでは有給管理ソフトを導入することで得られるメリットをご案内します。
4-1.有給管理業務を効率化できる
手作業やエクセルを使って有給の管理を行っている場合は、有給管理ソフトを導入することで付与や残数管理の業務を効率化することができます。有給管理ソフトの利用は、社員の人数が増えれば増えるほど効果を発揮しますが、有給の制度自体がやや複雑な面もあり従業員数が少なくても導入することで一定の業務効率化を図ることができると言えます。従業員の入社月によって有給の付与を開始する年月が異なっていたり、勤続年数に応じても付与日数が異なる場合があり、従業員が少なくても手間はかなりかかるものです。また2年で有給は消滅しますので、2年前に付与した古い有給から削除する必要がありこれらの手間もソフトの導入して自動化・効率化することができます。
4-2.有給管理業務をペーパレス化できる
クラウド型の有給管理ソフトを導入すると、有給の申請から承認までをシステム上で行えるため有給管理の業務自体をペーパレス化することができます。紙による業務がなくなることでコスト削減ができるほか、申請や承認もスマートフォンで行うことも可能になり従業員や承認者の工数も削減することができます。
4-3.有給休暇に関する法令遵守を推進できる
有給管理ソフトには、法律で定められた年5日の有給休暇取得義務への対応状況を確認できる機能が搭載されており、労務管理担当の方がこの機能を利用して有給取得が5日に満たない従業員へ取得を促すことができます。有給取得日数は自動で計算されるためタイムリーに正確な数を確認して労務管理担当の方は法令順守に向けた注意喚起を行っていくことができます。
5.デメリット
ここでは有給管理ソフトを導入することのデメリットをご案内します。
5-1.コストがかかる
有給管理ソフトの導入にはコストがかかります。従来エクセルで有給管理を行っていた場合は、新しい経費がかかってくることに対して会社の同意を得にくい場合もあります。そのような場合に有給管理ソフトを導入するためにはどう考えていけばいいか、そのヒントをお示ししたいと思います。
まず、有給管理ソフトを導入することで得られるメリットは、従業員が有給関連の法令を遵守しやすくすること、労務管理担当が有給管理業務を効率化できること、申請や承認を行う従業員が申請や承認の工数を削減できること、の3点です。有給関連の事故として一番避けたいのは、年5日の有給取得ができずに会社が労働基準監督署から罰金を受けたり、是正勧告を受けることです。この年5日の有給取得を確実に管理していくためには、正確な残数を把握してタイムリーに未取得者へ注意喚起をする必要があり、また有給の申請や承認も簡単に行えるようにする必要があります。それらを(特にクラウド型の)有給管理ソフトで労務管理担当が運用していくことで、会社が法律違反になるリスクを押さえていくことができます。そのための必要なコストと考えて導入を進めてみてはいかがでしょうか。
6.代表的な有給管理ソフトのご案内
ここでは有給管理ソフト(クラウド型有給管理サービス)をご案内します。
区分 | サービス名 | 提供元 |
クラウド型有給管理サービス | 有休ノート | 株式会社月華堂 |
オフィスステーション有休管理 | 株式会社エフアンドエム | |
マネーフォワード勤怠管理 | 株式会社マネーフォワード | |
インストール型有給管理ソフト | システムコア | 株式会社システムコア |
有休ママ | 株式会社ステラコンサルティング |
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